調査診断は、大規模修繕工事を前提とした現状把握のための建物調査診断であり、改修設計及び仕様策定の基礎資料にするために実施することを目的とする。特に第1回目の大規模修繕工事を控えた調査時には、新築時の建設会社の施工状態を確認することにより、経年劣化以外の不具合についてもチェックする。
1. アンケート調査
①アンケート調査
弊社標準のアンケート書式を基に、対象となる共同住宅に合わせ理事会または修繕委員会と打合せ作成する。主に上階や外壁からの漏水事故の有無や専用使用部分である各住戸バルコニーの劣化状態を聞き取り調査する。また、併せて共用部の不具合や改良・改善事項やバリューアップ要望事項等を把握し、改修設計仕様(項目)策定の参考資料とする。
②アンケート集計・まとめ
アンケートは、弊社が必要部数印刷して、管理組合の担当者宛に郵送し、管理組合が配布、回収し弊社へ送付することとする。弊社は、これをアンケート集計結果としてまとめ、居住者からの各種要望事項については、打合せで対応を区分する。
2. 現地調査(目視・打診・触診)
①事前資料の検討
竣工図面、工事履歴などを基に、建物の各部位の仕上げ、仕様を確認する。
②建物共用部建築調査
1.調査対象部位
壁面:外壁、共用部内壁、共用部天井、付属建物壁面、その他共用壁面 防水:塔屋、屋上、バルコニー床、開放廊下床、外部階段床、庇天端、付属建物屋根 鉄部:バルコニー・廊下等の手摺、玄関扉等の各種扉及び枠、鉄製階段、設備盤類、各種配管
外構:駐車場、駐輪場、外構設置物
2.調査方法
目視・打診・触診により、調査対象部位の現況を調査する。
3.調査内容
壁面(塗装)-仕上げ面の汚れ、チョーキング、変退色、ひび割れ、浮き、剥離、コンクリート下地状況(浮き、ひび割れ、白華、爆裂、欠損等)
壁面(タイル)-汚れ、ひび割れ、浮き、剥離、白華 防水-防水層の膨れ、ひび割れ、破断、欠損の状況、 シーリング材のひび割れ、剥離、破断、固化の状況 鉄部-表面塗膜の色合いや光沢度の変化白亜化の状況、塗膜の膨れ、剥がれ、割れの状況、素材の錆び、孔食、欠損の状況
③各住戸専用バルコニーへの立入調査
1.共用部である各住戸専用バルコニーへ入り、床・壁・天井・金物類について劣化状況を調査する。
2.調査箇所は、総住戸数の5~10%程度とし、事前の打ち合わせで調査日に協力を頂ける住戸の時間調整をする。
3.上層階、中層階、下層階、妻側などバランス良く選択し、特に漏水のある住戸については、出来る限り調査対象とする。
④給排水設備調査
1.調査対象部位
受水槽、高架水槽、給水ポンプ類、各住戸メーターボックス内部、その他露出配管類
2.調査方法
目視・打診・触診により、調査対象部位の現況を調査する。
⑤電気設備調査
1.調査対象部位
電灯設備:屋内共用灯、屋外共用灯
幹線設備:分電盤、開閉器盤
テレビ共聴設備:共聴アンテナ、共聴盤
電話・情報設備:端子盤、MDF盤、その他の盤類
2.調査方法
目視・打診・触診により、調査対象部位の現況を調査する。
⑥消防設備調査
1.調査対象部位
自動火災報知設備:受信盤・発信器、感知器類 屋内消火栓設備 :消火ポンプ、消火水槽、配管類 連結送水管設備 :放水栓、連結送水管
2.調査方法
目視・打診・触診により、調査対象部位の現況を調査する。
⑦その他の設備調査
- 調査対象部位 その他に指定した設備
- 調査方法 目視・打診・触診により、調査対象部位の現況を調査する。
3. 検査機器による各種試験・調査
①塗膜付着力試験-建研式
1.調査目的
既存塗膜の付着強度を測定することにより、塗膜の接着状況を把握し、塗膜の乾燥過程に発生する内部応力による剥離事故を防止し、今後の修繕工事での塗装下地の材料・方法を決定する、判断のための資料とする。
2.調査方法
居住者に影響の少ない塗装面を東西南北各1~2箇所を調査個所として選定する。鋼製アタッチメント(4.0cm×4.0㎝)を強力な接着剤で塗装下地面に接着する。硬化後、カッターを用いて周囲の塗膜をカットし、建研式接着力試験器にて、アタッチメントを引っ張り、アタッチメントに塗装面が接着されたまま、剥がれた時の塗膜剥離の数値を読み取る。一般に、旧塗膜を含む塗装下地強度は、0.5または0.7N/㎟以上必要とされる。
②タイル付着力試験
1.調査目的
既存タイルの付着強度を測定することにより、タイルの接着状況を把握し、今後の修繕工事でのタイル下地の補修数量・方法を決定する判断資料とする。
2.調査方法
居住者に影響の少ないタイル面を東西南北各1~2箇所を調査個所として選定する。電動工具を用いて周囲のタイル目地をカットし、鋼製アタッチメント(9.5cm×4.5㎝)を強力な接着剤でタイル面に接着し、硬化後、建研式接着力試験器にて、アタッチメントを引っ張り、アタッチメントにタイル面が接着されたまま、剥がれた時のタイル剥離の数値を読み取る。一般に、タイル下地強度は、0.4N/㎟以上必要とされる。
③コンクリート中性化深度測定試験
1.調査目的
コンクリートは元来、セメントの水和反応により生成され、水酸化カルシウムのpHが12.5と強アルカリである。この水酸化カルシウムは、大気中の炭酸ガスと反応し炭酸カルシウムに変化することにより、中性(pH値7)に近づくことを中性化と呼と呼んでいる。
鉄筋コンクリートは、鉄筋の酸化による腐食をコンクリートのアルカリ性で保護しているが、鉄筋の位置まで中性化が進行すると、防錆保護効果が失われる。従って、鉄筋コンクリートの耐久性をチェックするために、躯体コンクリートの中性化を測定する。
2.調査方法
試験方法は、コンクリートにφ35㎜、深さ25~35㎜程度のコアを抜き取り清掃後、指示薬であるフェノールフタレイン1%アルコール溶液を噴霧する。フェノールフタレインは、アルカリ性で朱色に変化し、中性化部分(pH10以下)では反応せず、反応しない深さを測定する。この数値を計算で算出した理論値と比較し、中性化の進行度を判定する。
④シーリング物性試験
1.調査目的 建物各部位の重要な雨仕舞いとして使用されるが、目視では表面的な汚れ、劣化程度しかわからないため、材質の劣化について硬化または軟化の程度を測定するために行う。
2.調査方法
サッシ廻り、打ち継ぎ目地、タイル目地などシーリングを使用した各所にてサンプルを採取しカッターナイフにより厚さ約3mmにスライスし、JIS K 6251(加硫ゴムの引張試験方法)に規定するダンベル状3号形に打ち切り、試験体とする。試験体を引張試験器にかけ、200mm/分の引張速度で破断するまで引張り、伸びが50%時の引張応力ならびに最大引張力、最大伸び率を求める。硬度は、JIS K 6253(加硫ゴムの硬さ試験方法)に規定されているスプリング式硬さ試験打器A形により測定する。シーリングの材種については、蛍光X線分析により行う。
⑤コンクリート簡易圧縮強度測定試験
1.調査目的
打設されたコンクリートの表面にシュミットハンマーを使用して打撃し、表面硬度を測定し測定結果から圧縮強度を推定して、設計通り必要な圧縮強度を維持しているかを確認する。
2.調査方法
コンクリート打ち放しで平滑な面に対し、シュミットハンマーを用い、打撃の方向は測定面に直角とし、徐々に力を加えて打撃を起こさせて測定する。1箇所の測定は、互いに5cmの間隔を保った25点について行い、25点の平均値をその箇所の硬度Rとする。この硬度Rから日本建築学会による計算式で強度を求め、経年補正し算出する。
⑥給排水設備詳細調査
1.調査目的
目視等による現地調査以外に築年数に応じて、下記の調査を行い、劣化状況を確認し、改修の時期を検討する。
2.調査の種類
・内視鏡(ファイバースコープ)による調査 ・抜管(サンプリング)調査 ・超音波肉厚測定調査
⑦特殊調査
1.調査目的
目視等による現地調査以外に必要に応じて、下記の調査を行うことにより、劣化状況をより詳細に把握し、改修の方法・時期等を検討する。また、新築時の施工会社への瑕疵請求資料として詳細なデータが必要な場合に実施することとする。
2.調査の種類
・赤外線による外壁劣化調査
・ブランコ、ゴンドラによる外壁等の劣化調査
・ロボットによる外壁等の打診調査
4. 調査報告書作成
①写真、データ整理
現地調査、検査機器による各種試験・調査で撮影した写真と記録したデータを各項目別に整理する。
②調査診断分析、所見作成まとめ等
各項目別に、調査診断の結果を分析し、建物の部位ごとに劣化状況の問題点などの総合所見をまとめる。劣化分布図については、目視調査では精度が期待できないため、瑕疵請求等で必要な場合を除き、原則として作成しないものとする。
③改修基本仕様提案書作成
結果を基に、主たる部位の改修仕様の提案を行う。
④報告書まとめ
①~③とアンケートの結果をA4版ファイルにまとめ、2部作成し、そのうち1部を提出する。
5. 調査診断報告会の開催
建物の劣化状況を住民へ知らせると共に、管理組合がコンサルタントと進めている大規模改修工事の準備活動や工事の時期などを説明する。これにより、住民の意識を高め、工事に対する認識を深めることとする。
①報告書のダイジェスト版作成
診断報告書を基に、要点をコンパクトにまとめたダイジェスト版を全戸分作成する。
②報告会用説明資料(PP)作成他
報告会のための説明資料をパワーポイント(PP)ファイルで作成する。
③調査診断報告会開催
プロジェクターでパワーポイントファイルを使用して、一般居住者対象にわかりやすく説明する。業務契約により設計説明会と兼ねて実施することもある。